つれづれじぐま

産業カウンセラーのこと、社労士のこと、日常のこと等をなんとなく書き綴ります。

時を越えて新しく7

整えられたお母様の部屋。

少し前に訪れたばかりだというのにほっとするお母様の匂い。

あぁ帰って来たんだなぁ。

そんな感傷に浸る前に椅子にはギラギラしたお母様がメモを用意して座っている。

形式的な挨拶を済ませ、お茶会が始まる。

「それでローゼマイン。フェルディナンド様はどういう方なの?」

どういう・・・って言われても・・・

「お母様。一体どんな報告を受けたかはわかりませんが、始まりの宴で挨拶をしただけですよ。まるでアレキサンドリア恋物語の初代アウブ配を思い起こすような風貌の方でしたが、ご子孫ですからおかしくもないでしょう?」

くぴっとできるだけ優雅に見えるようにお茶を飲む。お母様は我が意を得たりとばかりにきらりとした。

「そこですよ!!あなたはローゼマイン。アレキサンドリアの領主候補生はフェルディナンド様!!まるで初代様のようだと言われたのでしょう?それは運命の出会いに、運命の再会に違いありません!!」

手に大きな魔石を握りしめ、大興奮しているお母様。

あぁ、おそらくミュリエラとお母様の妄想が爆発してるよ。なにせお母様はエーレンフェストを代表する恋物語作家だから、どんなに小さなお話でも、豊かな想像力で国中の女性の心を掴むベストセラー作家だからね。

「お母様。偶然名前や風貌が似ているだけですよ。いや、私に限っては、洗礼式の時に寄せて改名したではないですか。ローズマインだったのに。」

そう。私は神殿やトゥーリやルッツからはマインと呼ばれていたけれど、洗礼式まではローズマインと呼ばれていた。それでも恋物語大好きなお母様が洗礼式で母に立つ時に、伝わる風貌や実績に似ているとのことでローゼマインがいいといい、特にこだわりがなかった私は了承したのだ。ローズもローゼも変わらないよって。

「そんなことはありません!!同じ時代に同じ風貌と名前を持つ2人が出会うなんて運命以外にありえないでしょう?これは運命です。間違いありません!!これから必ず素敵な恋物語が生まれるのよ!!」

「あわわわお母様、魔石が、魔石が金粉化しそうです。落ち着いて!!」

立ち上がりふぅふぅ肩で息をしているお母様の背中を撫で椅子に座らせる。

すごい作家の妄想力。これは止まらないだろうなぁ。

妄想の中で、とんでもなく素敵な物語が作られそう。

モデルにはなれないけどね。

「最上位のアレキサンドリアの領主候補生と最下位のエーレンフェストの領主候補生なんて不釣り合いですよ。まして私は養女ですし、あちらはおそらく次期アウブアレキサンドリアでしょう?あれだけのお姿と、聞く話では2年連続で最優秀をとり、今年度からは領主候補生・騎士・文官と3コースをとっているとのことですし、歴代アレキサンドリアの領主候補生はそのすべてで最優秀を治めると聞きます。そんな優秀な方、他の大領地や王族が放っておくはずがありませんって」

そう言うと

「よくフェルディナンド様のことを知っているではありませんか」

とお母様はにんまりと笑った。

「それはトゥーリや他の側近が!!」

にんまりを継続したままお母様は優雅にお茶を飲む。少し落ち着いたようだ。

「ハルトムートからの報告によると、あちらの成人側近や、文官見習い等からしきりにローゼマインの情報を探られたそうですよ。まぁもちろんアレキサンドリアだけではなかったようですが。」

「その報告は受けております。」

まったく皆気が早いんだよね。まだ10歳だよ!!嫁ぎ先や結婚相手なんてわかんないって。まぁ政略結婚が主だから探りが入るんだろうけど、最下位のエーレンフェストの領主候補生なんて興味ないだろうに。縁談はお義父様が決めるんだろうし、むしろヴィルフリート義兄様の妻を探すほうが難しいんじゃないかなぁ?なんせ次期アウブでも最下位だからね。やっぱ少しは順位をあげないと。むーん。ふんすっ!!

「フェルディナンド様はよく図書館にいらっしゃっていて、本を読むあなたを見ているそうよ。」

ぴくっ!!

「その報告は受けておりません!!」

「あらそうなの?なぜかしらねぇ?」

なぜなんてどうでもいい!!これはフェルディナンド様と本好きのお友達になれるのではないかしら?こんな貴族院が始まってからすぐに図書館に来ているなんて間違いない!!仲良くなったら噂のアレキサンドリア図書館の蔵書を見せてもらえないかしら?話では国で一番の図書館だという。昔それを聞いて、奉納式の途中にゲルラッハからアレキサンドリアに入ろうとして、産みの親であるゲオルギーネお母様にものすごーく怒られて、神殿の反省室に入れられて、肺炎を起こして死にかけたっけ。思い出して切なくなる。

「ローゼマイン?」

エルヴィーラお母様が心配そうに私を見る。

「いえなんでもありません。私の話よりもお母様のお話の進み具合を教えてくださいな」

これからは普通の親子のお茶会だ。

機智に富んだお母様とのお茶会はとても楽しい時間となった。