時を超えて新しく12
ローゼマインは生まれは領主一族。
育ちは平民街。育ての親は風変わりな上級貴族といった、一般的とはいえない幼少期を過ごした。
ゲオルギーネ様や、エーファミア、ギュンターから聞いた話では、プランタン・ギルベルタ商会の書庫が大のお気に入りで、常に入り浸っており、探すと必ずそこにいたという。
プランタン・ギルベルタ商会は植物紙と印刷の発明にも関わりのある商店だ。そのため、商品の記録としての博物館も持っていて、エーレンフェストの観光地の一つにもなっている。
老舗であり、下手な貴族より資金も持っている。
身喰いの魔力を有効活用する事業をいくつも持っていて、身喰いの扱いにも長けている。身喰いの見つけ方や、早期に自身の魔力に食われてしまう魔力を抜く方法を持っているようだ。広く公開できない理由は、扱いが難しく、中途半端に公開できないのだという。
ギュンターによると、少なくとも400年前からは身喰い事業はあるようで、プランタン・ギルベルタ商会に集まる魔力持ちの身喰いが、商会の者と血族になっていく事も多く、プランタン・ギルベルタ商会には魔力量の多い身喰いが生まれる事がよくあり、青色巫女や青色神官になる者も多い一族なのだという。
ギュンター自身もそうして青色巫女になった母が、上級貴族に見初められて生まれたのだと、なんにも恥ずべき事ではないといつも笑って話していた。
なんでも身喰いで魔力が大きくなってくると、やはり資産家であっても魔石の用意が難しい。
そしてシュタープもなく魔力の扱いを正式に学ぶ訳でもないので、本人、周囲の危険が高くなる。
さらに結婚が難しい。
平民にとって子供は大事な労働力でもあり、子が成せない前提の結婚は難しいという。
子が成せない程の魔力がある身喰いがいる事も、貴族達にはあまり知られていないが、よくある事なのだそうだ。
となると、結婚相手は身喰い同士か、貴族となってくる。
そうして産まれた子は強い魔力を持って▪▪▪と繰り返しているのだという。
当然その中の高魔力の子供は、貴族に、養子にいくことだってあるのだ。
「偉そうに俺を蔑むように見るやつだって、親そっくりの顔で、あの時生まれたアイツじゃねーかって思うことだってありますよ。」
秘密裏に養子縁組したってわかるときにはわかるのだ。
「まぁ、プランタン・ギルベルタ商会だって、高魔力の子が生まれたときには養子縁組先を探しますしね。商人は情報が命ですから、望んでいる家や残念な不幸があった家等に話を持ちかけるんです。そうすることが最も安全に成長できますから。魔力的には。もちろんうまくいかない場合には、戻ってくることもありますけどね」
色々とプランタン・ギルベルタ商会は自身のパイプを使って、この国の歴史を動かしているようだ。
「だから神殿のやつらにも言ってやってるんですよ!!生まれじゃなくて、自分がどう生きるかだって!!そんな自分にはどうしようもない事はぽいっとして、今の自分や未来にどんな事なら叶うのか考えろ!!ってな」
それは、神殿にいる者たちには大いに響いたでしょうね。
数奇な生まれ育ちのギュンターが言うのだからこそ、説得力も高い。
「だからローゼマイン様にも同じように言って育てたぜ。もちろんトゥーリもルッツもな。」
本当に、よい育て親に恵まれたこと。
そうしてローゼマインは、周りの目を気にすることなく、自身の好きなように、のびのびと育ったようだ。
入り浸っていた書庫で、様々な知識、古語、技術を学び、商人から、商売を、お金の稼ぎかたや交渉術を。平民の暮らしにも通じ、平民と別け隔てなく接していたという(そうは言っても良家の子女であると思われて他の子供達とは違っていたようだが)。旅商人から、他領の話を聞き、吟遊詩人に詩をねだる。面白い話は書物に!!と、商会主のベンノに直談判したという。平民の青空教室に混じって勉強する日もあれば、工房に見学にも行く。料理人に混じって料理をすることすらあるという自由ぶり。とても領主一族の娘とは思えない、想像もつかない暮らしぶりだこと。
ところが、ゲオルギーネ様はそんな話を次から次へと聞いて、それはそれは面白そうに聞き、かつもっと楽しい話を待っているわねとローゼマインを見送っていた。その時のローゼマインの嬉しそうな顔と言ったら・・・
風変わりなローゼマイン。風変わりなゲオルギーネ様。
第2夫人である私すら、ローゼマインの面会時に立ち会わすんですもの。本来ならありえないことです。
わたくしは、ローゼマインを喜ばすために、本を書き、気づくとベストセラー作家になっていましたけど。
だって、ネタの宝庫なんですもの。次から次へと出てくるおしゃべりの中の平民の話だって、貴族の話にしたらとても面白いと皆様に評判で・・・ハルデンツェルの工房も潤いますしね。こほん。
ぐいぐいと周囲を巻き込む力を持っている不思議な子でしたわ。