つれづれじぐま

産業カウンセラーのこと、社労士のこと、日常のこと等をなんとなく書き綴ります。

時を超えて新しく11

神殿は、主に貴族でない者が集う場所です。

子供用魔術具を与えられなかった者、貴族院を卒業できなかった者、シュタープを剥奪された者等魔力はあれど、貴族としては認められていない者が多くいるため、なかなか足を運び辛い場所です。

もちろん領政にとっても大事な場所なので、管理するための貴族もいますが、神殿での責務を与えられた者の多くは、落ち込み、出世を諦めると言われています。

しかし、ゲオルギーネ様は数多の者の魔力を吸い取る魔術具が神殿にあるのだから、ローゼマイン、当時はローズマインの命がかかっているんだから、試すしかないじゃないと、後のお茶会であっけらかんと言っておられましたわ。

まぁゲオルギーネ様の叔父であるベーゼヴァンスが神殿長をしていたから。というのもあったようですが。

そうしたゲオルギーネ様の機転により、ローゼマインは命をとりとめた。余談だが、吸い出したローゼマインの魔力は、常人なら上級貴族の成人であっても2つが限度の魔石を、4つ半光らせたという。

赤子でこの魔力量は規格外だ。いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な赤子。魔力暴走を起こした場合には周りを巻き込んでしまう可能性が高い。迂闊な者には預けられない。

赤子を連れて神殿に住むことは難しい。神殿の規律では、洗礼式前の子供は神殿地区には立ち入ることはできず、孤児院区域にいるものだ。孤児院に預けることはできない。必ずローゼマインには魔力管理ができる成人貴族をつけていないといけない。領主一族の娘、それも規格外に魔力の多い娘なのだ。護衛もないわけにはいかない。これはただの家の問題では終わらず、領地の問題にもなりかねない。

考えた末、ゲオルギーネ様は信頼のおける夫婦に託すことにした。騎士団の班長ギュンターとその妻エーファミアだ。このギュンターという男は変わっている。とても人懐っこく、騎士としての力も人望も高い上級貴族だ。しかし、出自が何より変わっていて、母は平民の身喰いだと公言して憚らない。洗礼前まで平民街で生まれ育ち、家門の断絶を免れるために引き取られ貴族となった。高い魔力を持っているにもかかわらず侮られることの多い貴族街を嫌い、現在でも平民街に屋敷を持ち、そこから通っている。妻のエーファミアは南のギーべ領イルクナー出身の側仕えだ。薬学や魔石の扱いに通じる穏やかなゲオルギーネ様の腹心だ。この2人に預け、平民街で主に暮らす。そして神殿やゲオルギーネ様との面会には、ギルベルタ・プランタン商会の協力を得て行うことにした。

ギルベルタ・プランタン商会はギュンターの母の実家だ。エーレンフェストでも最たる商家で、400年以上の歴史を持つ老舗だ。神殿孤児院に工房、マイン工房を持ち、ゲオルギーネ様の専属商会でもある。

商会の荷物の中であれば、赤子を秘密裏に運ぶことは難しくない。

神殿やゲオルギーネ様の所に運び面会をさせることも奉納させることも動きやすい。

そうして更に、ゲオルギーネ様はカルステッド様と相談して、ギュンターを神殿長に任命することにした。

神具の管理をする神殿長が、ちょうど空席だったことも手伝って、ローゼマインを育てるための環境を急ぎ整えたのだ。

神官長になったギュンターが、あれよあれよと青色神官・青色巫女たちをまとめあげ、あるものには執務を、そしてあるものには神殿騎士としての鍛錬を、あるものには芸術をと、適材適所に割り振り、彼らに自信と誇りを与えたのは、思わぬ副産物だ。

育った青色たちは灰色たちを教育し、灰色たちもいきいきと自身の責務を果たすようになった。

ローゼマインが2歳になる頃には、一人前の文官・騎士・側仕えができあがり、神殿はすっかり清められていた。

各々が自信を持ち統制のとれた神殿。当然のように魔力の奉納量も増えた。

ローゼマインから抜いた魔力だけでも相当の量だ。

増えた魔力は領地に。どんなに沢山あってもよいものだからと。

ところが、それでもライゼガング系のギーベ領に配られる魔力は増える所か減っていた。

おかしい。

その魔力は一体どこへ?

そう。礎の魔力に注がれていたのだ。

そして一部は、フロレンツィア様の頼みで、フレーベルタークにも流れたという。

餓死者もでている領地に魔力の融通を頼む者が次期領主の第一夫人だなんて!!

女性を見る目もないのかしら?

当時は次期領主と定められているだけのジルヴェスター様に、神殿の魔力を横流す力はなく、当然それは彼女に頼まれて行われたこと。

彼女の弟が神殿長だったからできたこと。

当然それを知ったギュンターは怒り狂った。すぐにでも噛みつきかねない勢いで怒った。それを止めたのは夫のカルステッドとボニファティウス様だ。2人は言った。必ず時が来る。来なければ起こす。そのために万人が認める証拠を集めてほしいと。

ギュンターはそんなに文官仕事は得意ではない。

しかし、神殿の中の多くの者がギュンターの味方だったから、細々とした証拠を集め、まとめてくれていた。

その証拠が揃ったことに喜び、次をどうするかというところと彼女が死んだタイミングは近かった。