つれづれじぐま

産業カウンセラーのこと、社労士のこと、日常のこと等をなんとなく書き綴ります。

時を超えて新しく10

私はエルヴィーラ。

最下位領地エーレンフェストの傍系領主一族です。

奉納式のために帰領したローゼマインとのお茶会を終え、ほうと一息をつく。

最下位であるということは、子どもたちは皆不自由が多いでしょうね。

エーレンフェストが最下位になったことには、一人の悪女の為である。

ローゼマインの母が亡くなったのも、貴族の数が減った事も、現領主の能力が足りない事も、私達リンクベルク家が、上級貴族になりかけたのに、中途半端な傍系領主一族にとどまった事もすべては彼女の被害によるものだ。

そんな大きな事だけでではなく、どれだけの影響が今もこのエーレンフェストに残っているのかは計り知れない。

私の出身一族であるライゼガング系一族は、すべて例外なく彼女からの嫌がらせを受けており、私の兄がギーべとして治める領地でも北で冬の厳しいハルデンツェルでは、奉納される魔力が足りず平民たちに餓死者が出るほどだった。

彼女の派閥にだけ魔力を優遇し、異なる派閥を冷遇した彼女。

前領主に第2夫人第3夫人を娶ることを許さず、迎えた他領からの第2夫人は輿入れ後半年も絶たずに魔石になった。領内のライゼガング系上級貴族の姫も同様で、証拠はなくとも許さないと荒れ狂った彼女によるものだろうとの噂から、手をあげるものはいなくなった。

当然領主一族は減り、礎の魔力を満たす事が難しくなる。

しかし足りないはずの魔力は彼女がどうにかしていた。後でわかるがとんでもない方法で。

私達リンクベルク家は、前領主アーデルベルトの兄であるボニファティウスを祖とする家だ。

義父ボニファティウスも、夫カルステッドも領主コースを修め、領主となる資格を有する。しかし、彼女は前領主の生前に、現領主ジルヴェスターが確実に次期となれるようにと、ボニファティウスの第2夫人の息子の瑕疵を理由に、ボニファティウスごと上級貴族になるよう、病床のアウブに決定させたのだ。

ただでさえ夫人がいなくて、領主一族が少ない中、兄の一族を上級落ちさせる。

なぜ前アウブもそんな無茶なことを承認したのかが皆不思議だった。

後にその理由は判明するのだが、3年の猶予を設け、リンクベルク家の名前を授け、屋敷を用意し、側近を解任する準備をして、あと2ヶ月というところでその事件が起きた。

彼女が死んだのだ。

それと同時に起こったことは、まずは前領主アーデルベルトの死亡。

領内の40を超える成人貴族の死亡。

ローゼマインの母である、ゲオルギーネの死亡だった。

名捧げ・・・

物語の中だけで語られる古の魔術。

その魔術により名を捧げていた貴族がすべて死んだのだ。

父をなくした者、夫をなくした者、妻を、母をなくした者、夫婦で亡くなった者、とたくさんの孤児が出た。

名捧げは命を捧げる者にする魔術であるのに、魔石になった者たちはとても心から彼女に仕えていたようには見えなかった。

もしかしたら、連鎖式に亡くなったのかもしれないが、それをわかる者は少ない。

名捧げをして名に命じられると拒否することはできないくらいの苦痛が生じる。

おそらく、いや順序からも間違いなく、前アウブのアーデルベルトも彼女に名捧げをしていたはずだ。それにより、リンクベルク家への上級落ちが承認されたのだろうと思うと納得できた。

その後のエーレンフェストがどうなるか。成人して星を結んだジルヴェスターとその妻フロレンツィア。その若き2人の肩に中領地が伸し掛かる。

ただでさえ少ない領主一族が2人になったのだ。とても無理だ。

今まで彼女がどこからか持ってきていた魔力の出どころも判明した。それは、神殿で集めた各ギーベ領へ配るはずだった魔力や、集めた身食いや、平民から取り上げた魔石等を礎の魔力として注ぎこんでいたのだ。

恥を知りなさい!!

本来であれば、祈念式で各地の収穫のために使われる魔力を奪い、数多の領民を餓死させ、権力にまかせて領民の財産を奪い、命すらも奪われる。それを行うのが領主の第1夫人だなんて穢らわしい!!

思い出すだけで溢れ出す魔力を握りしめた魔石に吸わせる。

聴取した青色神官によると、顕著になったのは3年ほど前とのことだった。

リンクベルク家を領主一族から上級貴族にするための策として行ったということだろあう。土地の魔力が減少しても影響が出るのは翌年以降ゆるやかに低下していく。その間にジルヴェスターに夫人を娶らせ、領主一族を増やす算段だったようだ。

自分の夫には他の夫人をもつ事を禁止したのにもかかわらず、自分の息子には第2第3夫人どころか妾まであっせんするとは浅ましいこと。

しかし、ジルヴェスターはフロレンツィアこそ光の女神だと他の者を娶らなかった。それは現在でも変わらない。ただの貴族や平民であれば好き好きでそれはいいであろうが、領主としてはいかがなものだろうとは思いますけどね。

そうして、若き領主が立ったときには、2人の領主一族と、魔力枯渇寸前で餓死者が増え土地を捨てる領民だらけで、旅商人すら寄り付かない領地が残った。

ジルヴェスター様に泣きつかれたボニファティウス義父様とカルステッド様は、前領主の命令取り下げの新領主の命により、傍系領主一族として残ることになった。

準備した上級貴族用の館準備は取りやめ、急遽城の別棟をリンクベルク家の居城として整えた。枯渇した領地でエントビッケルなんてできるはずもなく、ありあわせもありあわせの体裁だ。リンクベルク家には何ひとつ利などない。

その上、次期領主はヴィルフリートだと定め、私達の2人の成人息子とボニファティウス義父様の他の息子は上級貴族とされた。2人の息子は領主候補生・騎士と2コースを終了して貴族院を卒業した者だからこそ、礎を奪われることを恐れ、供給の間に入れないようにしたのだと噂された。

そうして、ボニファティウス義父様と2人の夫人。カルステッド様と私と第3夫人は魔力供給要員となった。第3夫人の娘は、供給の間で魔力枯渇を起こし、すぐに若くして亡くなった。

痩せた領地で、回復薬の準備すら苦労をする中魔力を注いでいた。

あの悪女の後始末だと思うと叫びたい気持ちになったが、私たちは領主一族。領民を飢えさせるわけにはいかないのです。

そして私には光がありました。

残されたローゼマインです。

生まれながらに魔力が多く、領主一族に伝わる子供用魔術具2つを金粉に変えました。

魔力暴走を起こしかけ、ぷつぷつと肌が浮き上がるような症状を見せはじめたローゼマインを生母のゲオルギーネ様は神殿へと連れて行きました。