つれづれじぐま

産業カウンセラーのこと、社労士のこと、日常のこと等をなんとなく書き綴ります。

時を超えて新しく13

ゲオルギーネ様・・・

わたくしは彼女ほど気高く、誇り高く、そして儚い方を知らないかもしれません。

淑女の中の淑女を皆の前では演じておられましたけれど、本来のゲオルギーネ様はそれはそれは少女のように自由で、そして器の大きな人でした。

そう。ゲオルギーネ様と初めてお会いしたのは冬の子供部屋。私より5歳年上の領主の長子。当時はジルヴェスター様はまだ洗礼式前でしたから、貴族院で優秀者にも選ばれる美しいゲオルギーネ様は、婿をとって次期アウブになるのではないかと噂されていました。

ゲオルギーネ様のいらっしゃる子供部屋は、派閥争いもなく公平で、皆がゲオルギーネ様に褒められたい、一目置いて欲しいと言わないばかりにがんばって学習していたものです。そうそう心酔して、女神のように崇めるものもいましたわね。彼もゲオルギーネ様と同時期に夫婦揃って亡くなりましたけど、とても優秀な文官でした。

子供は子供らしく、だけども時には仮面を被る事もできないといけませんよって笑ってましたね。今は素直な時間、今は貴族の時間って区切り、メリハリのある時間にしてましたわ。素直な時間には、領主一族も、上級も中級も下級もなく、身分差なしでの鬼ごっごやかくれんぼをいたしました。ゲオルギーネ様と2人一緒にこっそり隠れたカーテン裏の秘密な時間。まるでお姉さまができたみたいな気持ちになりましたのよ。後にそれを告げると、「私も妹を守る姉の気持ちでしたわ」って笑ってくださいました。ゲオルギーネ様には実の妹様がいらっしゃいますのにね。

そんな子供部屋から貴族院へ通う年齢になると、ひときわ美しくなったゲオルギーネ様が貴族院で目立つこと目立つこと。私達の領主候補生だと、鼻の高い思いをしましたわ。順位も8位まで上げられていて、座学の苦手な者の補修や予習にもゲオルギーネ様自ら積極的に関わっておられました。羨ましくていっそ成績を落とそうかと考えたものです。もちろん上級貴族の矜持からできませんでしたけど。

上位領地や先生方、王族の方からもお茶会に招かれる方でした。

当然のように縁談もたくさん届いていると聞いておりました。

他領へ嫁入りされるのだろうかと、大領地からの話でドキドキしていたものです。

ゲオルギーネ様が最終学年の時、1位の大領地のアレキサンドリアとの縁談があるというお話が出て、そのお話は進んでいるという風に聞いておりました。

そう、アレキサンドリアの次期領主の第1夫人としてのお話です。

同学年で、最優秀の座を争い続けていた、ジョルヴァージオ様と。二人を東屋で見かけたという噂話もあり、並んで歩く姿はまるで絵のようで、お似合いのお二人でした。

8位領地の姫が1位領地の第1夫人に望まれる。それがいかにゲオルギーネ様が優秀であるかということです。

ところが、正式な婚約の打診を・・・というところで、ジルヴェスター様が重病にかかり、命が危ないという状況になったのです。そうなると彼女が、この婚約を認めるはずがありませんでした。もし、ジルヴェスター様が亡くなった場合には、次代は、カルステッド様の可能性が高くなり、自身の血脈が継がれないからです。

この婚約のタイミングでの、ジルヴェスター様の重病は、神の意志だの運命だのと言って、この婚約は水に流されました。最終学年のタイミングでの婚約破棄・・・破棄までとは言えなくても、白紙に戻すということは、相手にとってもゲオルギーネ様にとっても瑕疵になりかねない最悪のタイミングです。

どんなに時の女神の悪戯を嘆いたことでしょう。

ゲオルギーネ様が、ジョルヴァージオ様がどのような思いで受け入れられたのかは、語られることがありませんでしたが・・・

ジョルヴアージオ様は、後にクラッセンブルクから第1夫人を迎えたけれど、死別し、後添いとして王族から第1夫人を娶られたと聞きました。

おそらくフェルディナンド様はそのお2人の子供なのでしょう。

そしてゲオルギーネ様は、親族のエスコートによる卒業式を迎え、卒業後の3年後に1つ歳下のカルステッド様と星を結びました。

私との婚約が整っている間に、彼女の無理やりな要望により、カルステッド様の第1夫人となることになったのです。

私の一族はそれはそれは怒りましたけれど、ゲオルギーネ様ということで矛を納めました。他の方でしたら、もっと大変なことになったことでしょう。

ジルヴェスター様はというと、半年程は患われましたが、貴族院に入学するころにはすっかり元気になっておられました。

それでも、貴族院の終わったゲオルギーネ様の縁談が難しかったのか、何がなんでも血脈に彼女の血を残したかったからの縁談なんでしょうね。

同じ夫を支える妻として見た時のゲオルギーネ様は、夫に熱い熱を感じる訳でもなく、政略結婚とどこか割り切ったような夫婦関係に見えました。

第1夫人としての役割というよりも、領主一族としての執務の手伝いに重きを置き、私に頭を下げて家の事を託されました。

そして時折こんな事を言っておりました。

「私は長くは生きられないの。いつ命の糸が切れるのかはわからないけど、私自身で決める事も、抗う事もできないの。私に何かあれば、ローズマインのことをよろしくお願いします。」

はらはらと涙を流し、私の手を握って、それはそれは真剣に頼むのです。なぜまだ20代の若く健康なゲオルギーネ様が、長く生きられないなんて言うのだろうと不思議でしたが、彼女に名を握られていたからなのだと、後にわかりました。

一体いつ名を握られたのかはわからないにしろ、自身の意思以上に強い生殺与奪の力を他者が持っているというのはとても安心して暮らせないでしょう。

まして握った相手が母であることは別としても、自分よりも年嵩で、領地中から恨みを買っている彼女です。いつ彼女の命が尽きるかわからず、かつ強制的に道連れにされる魔術なのですから。こんな魔術禁忌になって当たり前ですのに。

一体どうやって名を握られたのでしょうか・・・

賢いゲオルギーネ様がなぜ・・・それが不思議でなりません。私に語られることはなく、この世を去ってしまいましたが。